特養入所 資産1000万以上に引っかかる時の対処法

親の預金が1000万円を超えているから、特養には入れないのでは?」と不安になっていませんか。
結論からお伝えすると、資産がいくらあっても特養には入所できます。
引っかかるのは入所の可否ではなく、食費と居住費を軽くする「補足給付」という別の制度です。

そして軽減が使えない場合でも、月額負担を下げる対処法は8つあります。
軽減の有無で月額は約7万円、年間では84万円もの差が生まれますから、知らずに諦めるのはあまりに惜しい選択です。

この記事では、特養入所で資産1000万以上に引っかかる時の対処法8つをすべて具体的に示したうえで、自分がどの段階に当てはまるかの判定方法、預貯金を隠そうとした場合に何が起きるかまで整理しました。
退院の期限が迫っていても、今日から動ける手順でお伝えします。

特養入所は資産1000万以上あってもできる

特養入所は資産1000万以上あってもできる

ここでは、特養の入所要件に資産額が含まれていない事実、
「資産があると入れない」という誤解が生まれた背景、
そして1000万円という数字が実際には何の基準なのかを説明します。

入所要件は「原則要介護3以上」で資産額は問われない

特養の入所要件は、原則として要介護3以上であることです。
預貯金がいくらあるか?
不動産を持っているか?
これらは、入所判定の材料になりません。

2015年4月の介護保険制度改正により、特養の新規入所者は原則要介護3以上に限定されました。
厚生労働省が2025年12月25日に公表した調査(2025年4月1日時点)によれば、要介護3以上の入所申込者は20.6万人にのぼります。
判定は各施設の入所検討委員会が、要介護度・介護者の状況・在宅生活の困難度などを点数化して行う仕組みです。



つまり資産1000万円という数字は、この判定表のどこにも登場しません。
むしろ資産が多いことで優先順位が下がるといった運用も、制度上は存在しないのです。

まず「入所そのものは可能」という前提を押さえてください。

「特養は資産があると入れない」と誤解される理由

誤解の原因は、2つの別制度が混同されて語られてきた点にあります。
入所可否を決める制度と費用を軽減する制度が、同じ「特養」という言葉のもとで一括りにされてきました。

きっかけは2015年8月の制度改正です。
この改正で、食費・居住費の軽減を受ける条件に「預貯金等が単身1000万円以下」という資産要件が新設されました。
この「1000万円」という具体的な数字だけが独り歩きし、「1000万円あると特養はダメ」という短縮された形で広まっていきます。



さらに、退院期限が迫るなかで慌てて特養のことを調べだした家族が、断片的な情報に触れて申し込み自体を諦めるケースも起きています。
相談窓口へたどり着く前に自己判断で撤退してしまう点が、この誤解のもっとも深刻な影響といえます。

資産1000万円が関わるのは費用軽減(負担限度額認定)だけ

資産1000万円という基準が関係するのは、補足給付と呼ばれる制度です。
正式名称は「特定入所者介護サービス費」といい、市区町村へ申請して「負担限度額認定証」を受け取ると、施設の食費と居住費が軽くなります。

厚生労働省老健局の資料「補足給付の現状について」(2026年5月27日)によれば、この認定を受けている人は令和5年度で約90万人です。
低所得者を対象とした福祉的な給付という位置づけであり、所得と資産の両面から対象者を絞り込む設計になっています。



要件は「本人と同一世帯全員、および配偶者が住民税非課税であること」と「預貯金等が基準額以下であること」の2つです。
どちらか一方でも外れると認定されません。
次章では、引っかかった場合に取れる8つの対処法を具体的に見ていきます。

資産1000万以上に引っかかる時の対処法の前に特養入所での自分の負担段階を確認します

ここでは、預貯金の基準額が段階ごとに異なる事実、
貯金500万円台でも影響を受けるケース、
所得側の前提条件、
資産に含まれない財産の種類、
そして自分の段階を判定する手順を扱います。

基準額は1000万円とは限らない

多くの方が誤解している点をお伝えします。
預貯金の基準額は1000万円だけではなく、負担段階ごとに4種類に分かれています。
2021年8月の制度改正で、それまで一律だった基準が段階別に細分化されました。

現在の基準額は次のとおりです。
第1段階が単身1,000万円以下・夫婦2,000万円以下、
第2段階が単身650万円以下・夫婦1,650万円以下、
第3段階①が単身550万円以下・夫婦1,550万円以下、
第3段階②が単身500万円以下・夫婦1,500万円以下

となっています。

つまり1000万円がそのまま基準になるのは、老齢福祉年金受給者などが該当する第1段階と、40歳から64歳までの医療保険加入者(第2号被保険者)だけです。
この年代の方が介護保険を使えるのは、末期がんや若年性認知症など16種類の特定疾病に該当する場合に限られます。
年金収入で暮らす一般的な高齢者の多くは第2段階や第3段階に該当するため、実際の基準は500万円から650万円まで下がるのです。

貯金500万円以上でも支払額が変わる高齢者のケース

年金収入が年間80万円を超え120万円以下の方は第3段階①に区分され、預貯金の基準は単身550万円です。
この場合、貯金が600万円あれば1000万円に届かなくても軽減の対象から外れます。

さらに年金収入が年間120万円を超える方は第3段階②となり、基準は単身500万円まで下がります。
国民年金と厚生年金を合わせて月10万円程度を受給している方は、貯金500万円台でも認定されない計算になるわけです。

「1000万円もないから大丈夫」と考えて申請しないまま、実際には基準を超えていたという行き違いがここで起こるのです。
逆に「500万円しかないから対象外だろう」と諦めていた方が、判定してみると第2段階で認定されるケースもあります。
自己判断せず、必ず段階を確認してください。

前提条件は「世帯全員+配偶者が住民税非課税」

預貯金の基準を満たしていても、所得の要件を外れると認定されません。
条件は「本人を含む同一世帯の全員が住民税非課税であること」および「配偶者が住民税非課税であること」の2つです。

配偶者については、別世帯であっても判定に含まれます。
世帯分離をしても夫婦の関係は切れないため、配偶者が課税されている限り認定は下りません。
離婚した場合や、DV等で扶養を受けていない場合には例外的な取り扱いがあります。

なお第2段階と第3段階①を分ける所得の境界は、2026年8月から年間80.9万円から82.65万円へ引き上げられました。
この数値は老齢基礎年金の満額改定に連動して毎年見直されるため、申請年度の基準を確認する必要があります。

資産要件に不動産・生命保険は含まれない

自宅を持っている方が心配される点にお答えします。
不動産は預貯金等に含まれません。
自宅はもちろん、居住用以外の土地や建物も、補足給付の資産要件では計算の対象外です。

含まれるのは、現金・普通預金・定期預金・有価証券・投資信託・金や銀などの貴金属です。
タンス預金も対象に含まれ、申告義務があります。
一方で生命保険、自動車、腕時計や宝石といった時価評価が難しい財産は含まれません。

負債の扱いは自治体によって分かれます。
住宅ローンなどがあっても預貯金から差し引かないとする自治体が多い一方、控除を認める自治体も存在するため、窓口での確認が欠かせません。
有価証券を保有している場合は、残高証明書の提出を求められます。

3ステップで自分の段階を判定する

判定は次の順序で進めると迷いません。
所得要件の確認、
負担段階の特定、
預貯金基準との照合

という3段階で自分の位置がはっきりします。

第1ステップとして、本人と同一世帯全員、および配偶者の住民税課税状況を調べます。
課税されている人が1人でもいれば第4段階となり、補足給付の対象外です。
市区町村の窓口で課税証明書を取得すれば確認できます。

第2ステップでは、本人の年金収入と合計所得金額から第1段階から第3段階②のどこに当たるかを特定します。

第3ステップで、その段階に対応する預貯金基準と実際の残高を照合してください。

この作業は市区町村の介護保険担当課でも一緒に確認してもらえますから、通帳を持参して相談する方法が確実です。

軽減が使えないと特養入所の月額は約7万円上がる

ここでは、軽減の有無による月額の具体的な差、
親の年金だけで支払えるかどうかの試算方法、
そして差額の負担をめぐって家族間で起きやすい問題を取り上げます。

軽減あり・なしの月額比較(部屋タイプ別)

金額の差を具体的に見ていきます。
特養のユニット型個室では、軽減あり(第2段階)と軽減なし(第4段階)で月額約7万円の開きが生じます。

2026年8月時点の1日あたりの金額で計算しました。
軽減なしの場合、居住費2,066円と食費1,545円を合わせて3,611円、30日で約10.8万円です。
第2段階では居住費880円と食費390円で1日1,270円、30日で約3.8万円にとどまります。
差額は月7万円、年間では84万円にのぼる計算です。

多床室では差がやや縮まります。
軽減なしで居住費915円と食費1,545円の合計2,460円、
30日で約7.4万円です。

第2段階なら居住費430円と食費390円で1日820円、
月額約2.5万円となります。

ここに介護サービス費の自己負担と日用品代が加わる点も計算に入れてください。

親の年金だけで払えるかを試算する

実際の支払総額を試算しましょう。
要介護3でユニット型個室に入所した場合、軽減なしの総額は月額約14万円から15万円になります。

内訳は、食費と居住費で約10.8万円、介護サービス費の自己負担(1割)が約2.5万円、日用品費や理美容代などが約1万円です。多床室を選べば約11万円まで下がります。軽減が適用される第2段階なら、総額は約7万円に収まる計算です。

厚生労働省の年金統計では、老齢厚生年金の平均受給額は月14万円台、老齢基礎年金のみの場合は月5万円台という水準にあります。
国民年金だけで生活してきた親であれば、軽減なしの特養費用は年金だけでまかなえません。

不足分を貯金の取り崩しで補うのか?
または、、子が負担するのかを早い段階で決めておく必要があります。

差額を誰が負担するかで家族が揉める?

費用の問題は、家族関係の問題へ直結します。
実務を担う子と離れて暮らす兄弟姉妹との間で認識がずれ、感情的な対立に発展するケースが後を絶ちません。

総務省の2022年就業構造基本調査によれば、介護をしている人は629万人で、そのうち365万人が働きながら介護に当たっています。
介護離職者は年間10万6千人にのぼり、その約75%が女性です。
近くに住む子が施設探しと手続きを一手に引き受け、遠方の兄弟は費用の話にだけ意見する構図が生まれやすくなっています。



対策として有効なのは、月額の試算表を作って共有する方法です。
毎月いくら不足し、誰がいくら出すのか」を数字で示すと議論が具体化します。
親の資産から支出する場合も、記録を残しておけば相続時のトラブルを防げます。

特養入所で資産1000万以上に引っかかる時の対処法は8つ

特養入所 資産1000万以上に引っかかる時の対処法

ここでは、補足給付が使えない場合でも月額負担を下げる方法を8つ紹介します。
効果の大きいものから解説していきます。

対処法 効果の目安(月額) 難易度
①多床室を選ぶ 約3.5万円減 低(施設に空きがあれば)
②社会福祉法人等の軽減制度 介護費・食費・居住費が1/4減 中(要件が厳しい)
③高額介護サービス費 上限超過分が還付 低(多くは自動適用)
④高額医療・高額介護合算 年間の超過分が還付 中(申請が必要)
⑤医療費控除 自己負担の1/2が控除対象 低(確定申告)
⑥特例減額措置 第3段階②相当まで軽減 高(要件が複数)
⑦世帯分離 効くケースは限定的
⑧翌年の再申請 認定されれば約7万円減 低(毎年8月更新)

①多床室を選ぶと居住費が大きく下がる

部屋タイプの変更は、もっとも即効性のある対処法です。
軽減が使えない状態でも、ユニット型個室から多床室へ変えるだけで月額が約3.5万円下がります。

具体的な数字で比べてみましょう。
2026年8月時点の基準費用額は、ユニット型個室の居住費が1日2,066円多床室が1日915円です。
30日で換算すると、居住費だけで月額約6.2万円約2.7万円という開きが生まれます。

多床室は4人部屋などの相部屋であり、プライバシーの面では個室に劣ります。
ただし介護職員の目が届きやすく、入居者同士の交流が生まれやすいという利点もあります。
近年は特養の新設がユニット型中心に進んでおり多床室は減少傾向にあるため、地域によっては選択肢として存在しない点にご注意ください。

②社会福祉法人等の利用者負担軽減制度を使う

社会福祉法人が運営する施設では、生計が困難と認められた人の負担を原則4分の1軽減する制度があります。
対象は介護サービス費・食費・居住費の3つで、老齢福祉年金受給者は2分の1まで軽減されます

要件は自治体によって細部が異なります。
名古屋市の例では
「世帯全員が市民税非課税」
「年間収入が単身150万円以下(世帯員1人増ごとに50万円加算)」
「預貯金等が単身350万円以下」
などを満たす必要があります。

補足給付を受けていることが食費・居住費軽減の前提となる自治体が多い点も押さえてください。

注意すべきは、この制度が法人単位の任意実施である点です。
社会福祉法人が運営していても軽減を実施していない施設が存在するため、入所先を検討する段階で施設の相談員へ直接確認しておきましょう。

③高額介護サービス費で自己負担に上限がかかる

介護サービス費の自己負担には、月額の上限が設けられています。
上限を超えた分は申請により払い戻されるため、資産要件とは無関係に利用できる制度です。

上限額は所得区分によって分かれています。
住民税課税世帯の一般区分で月44,400円、
課税所得380万円以上690万円未満で93,000円、
690万円以上で140,100円です。
住民税非課税世帯は世帯で24,600円、生活保護受給者等は15,000円となっています。

ただし対象は介護サービス費の自己負担分に限られ、食費と居住費は含まれません。
補足給付に引っかかった人の負担増は主に食費・居住費で発生するため、この制度だけでは差額を埋めきれない点を理解しておく必要があります。
初回のみ申請が必要で、以降は自動的に振り込まれる自治体が大半です。

④高額医療・高額介護合算療養費で年間負担を抑える

医療費と介護費の両方が高額になっている世帯では、年間の合算額に上限がかかります。
毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間で計算し、上限を超えた分が払い戻される仕組みです。

上限額は年齢と所得で細かく設定されています。
健康長寿ネットの解説によれば、70歳以上で年収約370万円以下の世帯は年間56万円、住民税非課税世帯は31万円が基準です。
医療機関への入院が続いた後に特養へ入所したケースでは、この制度が効きやすくなります。

こちらも食費・居住費・差額ベッド代は対象外です。
介護保険と医療保険の両方の窓口で手続きが必要となるため、市区町村の介護保険担当課へ相談したうえで申請書を取り寄せてください。
申請には自己負担額証明書の添付が求められます。

⑤医療費控除で特養費用の一部を申告できます

確定申告での医療費控除は、見落とされやすい対処法です。
特養では、施設サービス費・食費・居住費として支払った自己負担額の**2分の1**が医療費控除の対象になります。

老人保健施設(老健)や介護医療院では自己負担額の全額が対象となるのに対し、特養は2分の1にとどまります。
それでも年間の支払いが150万円であれば75万円が控除対象となり、所得税と住民税を合わせて相当額が戻る計算です。
おむつ代も医師の証明書があれば対象に加えられます。

対象となるのは、実際に支払った人の確定申告です。
子が親の施設費用を負担している場合、生計を一にしていれば子の申告で控除を受けられます。
施設が発行する年間の領収書は必ず保管しておいてください。

⑥特例減額措置なら課税世帯でも軽減されます

住民税課税世帯であっても軽減を受けられる例外的な制度が、高齢夫婦世帯等に対する特例減額措置です。
夫婦の一方が施設へ入所したことで、在宅に残る配偶者の生活が困窮する事態を防ぐ目的で設けられました。

適用にはすべての要件を満たす必要があります。
主な条件は次のとおりです。

– 世帯員が2人以上いること
– 世帯の1人が施設へ入所し、第4段階の食費・居住費を負担していること
– 施設費用を除いた世帯の年間収入が82.65万円以下になること
– 預貯金等が450万円以下であること
– 居住用以外に活用できる資産がないこと

要件を満たすと、負担段階が第3段階②相当まで引き下げられます。
運用の細部は自治体で異なるため、該当しそうな場合は市区町村の窓口へ相談してください。

⑦世帯分離は効くケースと効かないケースがあります

世帯分離とは、同居している家族の住民票上の世帯を分ける手続きです。
課税されている子と世帯を分ければ「世帯全員が非課税」という要件を満たせる場合があり、対処法として紹介されることがあります。

しかし効果には明確な限界があります。
配偶者は別世帯であっても必ず所得を合算して判定されるため、配偶者が課税されている場合は世帯分離しても意味がありません。
加えて、所得要件をクリアしても預貯金が基準額を超えていれば、やはり認定されないのです。

また世帯分離は、国民健康保険料や高額介護サービス費の区分にも影響します。
片方が下がっても別の負担が上がる可能性があるため、単独で判断せず窓口で総合的に試算してもらう進め方をおすすめします。

⑧認定は毎年更新なので翌年に再申請できる

今年認定されなかったとしても、それで終わりではありません。
負担限度額認定証の有効期間は毎年8月1日から翌年7月31日までで、自動更新されないため毎年申請する仕組みになっています。

判定は申請時点の預貯金残高で行われます。
したがって施設費用や医療費として本人の資産を正当に取り崩していけば、翌年には基準額を下回って認定される可能性が生まれます。
1000万円をわずかに超えている程度であれば、1年間の施設費用支払いで基準内に収まるケースは珍しくありません。

重要なのは、認定されなかった年も記録を残しておく点です。
通帳の記帳を続け、翌年7月頃に再申請の準備を始めてください。
市区町村によっては更新案内が送付されますが、届かない場合もあるため自分で管理する意識を持ちましょう。

預貯金を隠す対処法は金融機関への照会でバレる

ここでは、
申請時の同意書にもとづく調査の仕組み、
虚偽申告に科されるペナルティ、
口座を分けても通用しない理由、
そして贈与や名義変更に伴うリスクを説明します。

申請時の同意書にもとづく照会の仕組み

負担限度額認定の申請では、通帳の写しとあわせて同意書の提出が求められます。
この同意書は、市区町村が金融機関へ直接照会するための根拠となる書類です。

申請書に署名した時点で、本人と配偶者の預貯金等について金融機関へ照会する権限が自治体に生じます。
実際の照会は全件ではなく、申告内容に疑義がある場合や無作為抽出で実施されます。
照会の対象は特定の金融機関だけでなく、複数の機関へ同時に問い合わせる運用も可能です。

調べようがないだろう」という前提が成り立たない仕組みになっている点を理解しておいてください。
申請書には偽りの申告をした場合の罰則が明記されており、署名はその内容への同意を意味します。

虚偽申告は返還額+最大2倍の加算金です

不正に認定を受けた場合の代償は、想像以上に重くなります。
介護保険法第22条第1項にもとづき、受け取った給付額の全額返還に加えて、最大2倍の加算金を徴収されます。

たとえば月7万円の軽減を1年間受けていた場合、給付額は84万円です。
これに最大168万円の加算金が上乗せされ、合計252万円の支払いを求められる計算になります。
分割納付が認められるかどうかは自治体の判断であり、一括請求されるケースもあります。

さらに施設側との信頼関係にも影響します。
返還請求が発生すると施設へも事実が伝わり、退所を求められる事態は避けられたとしても、居心地の悪さは残るでしょう。
リスクに見合う利益はありません。

口座を分けても通帳は全口座が対象

メインの口座だけ申告すればよい」という発想は通用しません。
申告の対象は、本人と配偶者が保有すすべての口座です。
使っていない休眠口座も、少額の口座も例外ではありません。

提出を求められる通帳の写しの範囲は自治体で異なります。
直近3か月分の記帳を求める自治体もあれば、前年1年分の入出金明細を要求する自治体もあります。
表紙・見開きページ・最終残高のページをそろえて提出する形式が一般的です。

タンス預金についても申告義務があります。
申告漏れが後から判明した場合、意図的でなかったとしても給付の返還を求められます。
申請前に親のすべての口座を洗い出す作業から始めてください。

贈与・名義変更は贈与税と相続争いを招くリスク

資産を子や孫へ移して基準内に収める方法には、複数のリスクが伴います。
補足給付を受ける目的での資産移転は、不正受給と評価される余地があります。

税務上の問題も生じます。
年間110万円の基礎控除を超える贈与には贈与税がかかり、税率は最高55%に達します。
加えて、子が管理を知らない口座や自由に使えない口座は「名義預金」と判断され、相続時に親の財産として課税対象へ戻されるのです。
相続人同士の争いの火種にもなります。

成年後見人が選任されている場合、制約はさらに厳しくなります。
後見人の職務は本人の財産保護であるため、本人の利益にならない贈与は原則として認められません。
資産の移転を検討する際は、税理士や司法書士へ相談したうえで判断してください。

特養入所以外との比較が最後の対処法になる


ここでは、
軽減が使えない場合に特養の価格優位が縮む理由、
多床室の空き状況という現実、
待機期間の問題、
施設類型ごとの費用比較、
そして老人ホーム紹介会社の活用範囲を整理します。

軽減が使えないと特養の価格優位は縮む

補足給付が適用される場合、特養は圧倒的に費用が安く、比較検討の必要はほとんどありません。
しかし軽減が使えないと、他の施設との差が月2万円から5万円程度まで縮小します。

軽減なしの特養ユニット型個室は月額約14万円から15万円です。
一方、地方の住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、家賃・食費・管理費に介護保険の自己負担を加えて月額約15万円から20万円という水準にあります。
都市部では差が開きますが、地方では両者が近づく傾向にあります。

ここで注意していただきたいのは、有料老人ホームやサ高住には補足給付そのものが存在しない点です。
民間施設なら安くなる」という理解は誤りであり、あくまで「特養の優位性が縮む」という意味に限られます。

最安の多床室は地域に空きがあるとは限らない

計算上もっとも安いのは多床室ですが、実際に入れるかどうかは別問題です。
多床室は近年の新設施設で採用されにくく、地域によっては選択肢そのものが存在しません。

2002年以降の特養整備は、個室とユニットケアを基本とする方針で進められてきました。
その結果、既存の多床室は稼働率が高く空きが出にくい状態が続いています。
都市部では多床室の待機期間が個室より長くなる逆転現象も起きています。

つまり「多床室を選べば安い」と分かっても、自分の地域で今すぐ入れる多床室があるかどうかは、個別に調べなければ判断できません。
この情報は施設ごとに変動するため、公開情報だけでは把握しきれない領域です。

待機期間をどう埋めるかという別問題

費用の見通しが立っても、入所時期の問題が残ります。
厚生労働省が2025年12月に公表した調査では、要介護3以上の入所申込者は20.6万人、うち在宅で待つ人が8.6万人という状況です。

前回2022年度調査の25.3万人からは約18%減少しましたが、都市部を中心に待機は続いています。
病院からの退院期限が迫っている場合、特養の順番を待つ余裕がないケースも少なくありません。
待機中の受け皿として、ショートステイの連続利用、老健への一時入所、住宅型有料老人ホームの活用といった選択肢を並行して検討する必要が出てきます。

親が在宅で待つ場合、介護する家族の負担も無視できません。
2022年国民生活基礎調査によれば、介護者と要介護者がともに65歳以上の「老老介護」は63.5%に達しています。

施設類型別の費用と軽減制度の有無を比較する

施設ごとの特徴を整理しました。
補足給付が使えるかどうかで、比較の前提が変わります。

特養 月約9万〜15万円。補足給付あり。
要介護3以上、待機が長い
老健 月約8万〜20万円
補足給付あり。
在宅復帰が前提で入所期間に制限
介護医療院 月約9万〜20万円。
補足給付あり。
医療的ケアの必要度が高い方向け
グループホーム 月約12万〜20万円
補足給付なし。
認知症の方が対象、地域密着型
住宅型有料・サ高住 月約12万〜25万円
補足給付なし。
入居しやすく選択肢が多い



軽減が使えるなら介護保険3施設が有利であり、使えないなら民間施設も同じ土俵に乗ってきます。
判断の軸は費用だけでなく、入所時期・医療対応・立地・面会のしやすさを含めて設定してください。

老人ホーム紹介会社の使い方と限界を知っておく

老人ホーム紹介会社を利用する前に、構造を理解しておく必要があります。
紹介会社の収益は施設側が支払う紹介手数料であるため、手数料の発生しない特養は取扱対象に含まれません。
特養への申し込みは、市区町村または施設へ直接行う手続きです。

したがって「紹介会社に相談すれば特養に早く入れる」という期待は成り立ちません。
紹介会社が扱うのは、主に住宅型有料老人ホーム・介護付き有料老人ホーム・サ高住・グループホームといった民間施設です。
この前提を知らずに相談すると、話がかみ合わずに終わります。

一方で、特養の順番待ちが続き、待機中の選択肢を並行して探す段階では活用の余地があります。
地域の民間施設の相場と空き状況は個人では調べにくく、複数施設の比較資料を一度に受け取れる点は時間の節約につながるためです。

なお、2024年12月に厚生労働省が有料老人ホームの設置運営標準指導指針を改正し、紹介手数料をめぐる適正化が進められています。
相談時には、紹介手数料の仕組みと、どの範囲の施設を扱っているかを最初に確認してください。

特養に限らず、他の老人ホームを調べてみることは決した無駄にはなりません。
相談は無料ですし、きっといろいろな老人ホームがあることに驚かれるかと思います。
選択肢を一つでも増やしておくことが、後悔しない老人ホーム選びの鉄則です。

今日の3つの行動で判断は前に進みます

ここでは、
資産の把握、
窓口への相談、
地域の施設情報の収集
という3つの行動を提案します。

いずれも今日から着手でき、判断を前へ進める効果があります。

親の全口座を記帳して資産を把握する

最初に取り組むべきは、親の預貯金の全体像をつかむ作業です。
申請の前提であるだけでなく、判断能力が低下すると口座が凍結され、子であっても引き出せなくなるためです。

通帳・キャッシュカード・金融機関からの郵便物を集め、すべての口座を洗い出してください。
記帳を最新の状態にし、有価証券があれば残高証明書を取り寄せます。

この作業を親が元気なうちに済ませておくと、後の手続きが格段に楽になります。

自治体窓口とケアマネに段階を確認する

資産の把握が済んだら、市区町村の介護保険担当課へ相談します。
通帳と課税証明書を持参すれば、自分がどの負担段階に当たるかをその場で確認してもらえます。

担当のケアマネジャーにも状況を共有してください。
社会福祉法人による軽減制度の実施状況や地域の施設の空き情報を持っている場合があります。

窓口とケアマネの両方から情報を得ると、判断材料がそろいます。

地域の施設相場と空き状況を把握しておく

特養の順番を待つ間に、地域の施設相場を把握しておくと選択の幅が広がります。
待機が長引いた場合の代替案を持っておけば、退院期限に追われて条件の悪い施設を選ぶ事態を避けられるためです。

見学は1施設でも構いません。
実際の建物と職員の様子を見ておくと、資料だけでは分からない判断基準が身につきます。
設備の新しさよりも、職員が入居者へどう声をかけているかを見ておくと、親を預ける判断がしやすくなります。

具体的な第一歩として、通える範囲にどんな施設があるかを調べ、気になった2〜3か所へ資料請求をするところから始めてください。
1時間ほどの作業で選択肢の全体像がつかめますし、複数施設をまとめて比較したい場合は老人ホーム紹介会社の資料請求サービスも利用できます。
動き出してみると、悩んでいた時間より判断が早く進むはずです。

特養入所と資産1000万以上の対処法に関するよくある質問

ここでは、申し込みの可否、再申請、資産移転、申請手続きについて、読者から寄せられやすい疑問に簡潔にお答えします。

資産1000万円を超えていても特養に申し込めますか?
申し込めます。
特養の入所要件は原則要介護3以上であり、資産額は判定に含まれません。
資産が影響するのは食費・居住費の軽減制度だけです。
負担限度額認定に落ちたら翌年も申請できませんか?
翌年も申請できます。
認定証の有効期間は毎年8月1日から翌年7月31日までで、毎年更新の手続きが必要です。
施設費用の支払いで預貯金が基準を下回れば、翌年に認定される可能性があります。
親の預金を子に移せば軽減を受けられますか?
おすすめしません。
軽減目的の資産移転は不正受給と評価される場合があり、発覚すれば給付額の返還に加えて最大2倍の加算金が科されます。
贈与税や名義預金の問題も生じます。
認定証の申請はどこにいつすればよいですか?
親の住民票がある市区町村の介護保険担当窓口へ申請します。
施設の所在地ではない点にご注意ください。
申請書・同意書・通帳の写し・被保険者証を提出し、審査には2週間から1か月程度かかります。文

※本記事に記載した金額・基準額・要件は、すべて2026年8月時点のものです。
 介護保険制度の基準は毎年8月に見直されるほか、通帳の写しの提出範囲や負債の取り扱い、社会福祉法人による軽減制度の実施状況などは自治体ごとに運用が異なります。
 実際の申請や施設選びを進める際は、必ずお住まいの市区町村の窓口で最新の情報をご確認ください。**
時のチェックリスト」への導線が自然に成立します。CTA直前の判断軸補強として機能します。